第26回無料診療キャンプ報告(By宮城島) 2017年09月26日:総括(9月25日ケニアを発つ日)

DSCN1916サファリに行く人たちは朝早く出かけて行った。のんびりと一人遅い朝を迎える。穏やかな天気だ。プムワニでは喧噪と埃と匂いのなかで、また新しい一週間が始まっていることだろう。車でたった30分程度しかない距離の決定的な差は貧困だ。貧富の差の距離を毎日行ったり来たりして我々は過ごした。

9月16日からの今年のキャンプもついに終了した。ただ終わったのは、診療行為だけであり、これからの陽性者のチェックやフォローアップ、薬剤の在庫管理などまだまだ残っていることがたくさんある。たった、一週間程度の外来診療である。終わってはいさよならでは、自己満足に過ぎない。
久しぶりの一人の時間を利用して、今年のキャンプを振り返ってみたいと思う。
1.医療専門職集団
今年も医療専門集団という最強のメンバーが集結した。医師では、派遣拠点が明確となりつつある。釧路労災病院、都立小児総合医療センター、神戸大学感染症科。今年もこの三施設から医師派遣が継続された。この強みは大きい。最近のケニア医療事情を考えると、現地で活動する医師登録がかなり厳格化されてきている。ゆえに、医師派遣元が固定されているということは、毎年の準備を早くからしやすいことに繋がる。と同時に、それぞれの施設で経験を仲間同士で共有出来、次の派遣医師への情報伝達がスムーズに行きやすい。どの三施設も毎年ケニアキャンプの報告会を開催しているのはその証左だ。
そして薬剤師。昨年の処方枚数の多さを考慮すると薬剤師一人では限界だと昨年の総括の中で報告したが、今年は二人体制になった。これでかなり激務が緩和すると思われたが、レジスターベースでの一般外来受診患者数は2724人と昨年を700人近く上回ったことで、薬剤業務の忙しさは変わらないように見えた。しかし、青山さん主導で看護師を交えてかなりシステミックに処方され、さしたる混乱にはならなかったように思う。毎年毎年多くの工夫が加えられ、処方がスムーズになるのは目をみはるばかりだ。ここにも素晴らしい専門集団がいる。
看護師は今年4人参加した。川嶋君一人が初参加となったが、柳瀬、宮本、坂本さんは複数経験者。それぞれの個性と専門的技量で、あらゆる分野で野戦病院を支えた。
鍼灸師も毎年あんずの種から派遣され情報共有されてくるので、初参加であっても、診療体制は変わらないし、歯科衛生士は歯科医とのペアリングは必須だ。
昨夜の最終ミーティングで、多くの医療者が来年参加の意向を示してくれたのはとても頼もしい限りだ。来年のメンバーの青写真はほぼ固まっているといっても過言ではない。
2.行政との確執
キャンプの準備のために、稲田先生が疲弊する姿を見てきた。彼や現地スタッフのアリやワンボゴだけではなく、ロジスティシャンの存在が必要だと指摘してきたところだが、今年は、それをサポートするべく、宮本さんと坂本さんが一週間先乗りしてくれた。ただ今回はいつもとちょっと事情が違った。行政のクリニック開設許可騒動である。どこの途上国での医療支援でも見られる光景がある。表面上は有効的で歓迎ムードであっても、どこか余計なお世話をするな的は冷えたまなざしが行政にはある。ケニアもその例外ではない。確かに、現地の医療体制は少しずつ改善されてきていると行政は考えているのかもしれない。住民の医療へのアクセスは私が初めてケニアを訪れた15年以上前よりは格段にハードルが低くなってきているとは思う。しかし、私たちが18年間定点で(プムワニで)継続してきた医療に対して、もう少し理解と協力が必要なのではないかと思う。なんだかんだとクリニック開設許可を先延ばしにし、結局200ドルの賄賂で決着せざるを得ないという事情を見過ごすわけにはいかない。この許可の遅れがすべてのロジスティックに影響した。せっかく二人の有能なロジスティシャンを先乗りさせていたのに、十分機能できなかったのは行政の怠慢としか言いようがない。加えて金曜日には、行政側から行政主催の研修会を開催するので、我々がキャンプで使用しているソシアルホールを引き渡せとの通達があった。こちらが先に使用届を出し、許可をもらっているのに横柄な暴挙だ。幸いすでに機能している我々のキャンプを止められないと悟ったのだろう、通達は実現することはなかった。
こんな確執が最近とみに多いような気がする。行政としては着実に実績を上げている我々の医療行為が目の上のたんこぶにしか見えないのだろうか。トップが代わるたびに出直しさせられることも相当のストレスだ。
そして、今年の医師たちのストライキ。もう3か月にもなるストは、公的病院の機能不全を引き起こし、受診難民たちが我々のキャンプにも大勢訪れていた。行政の対応の幼稚さずさんさが見て取れる。住民は大統領の交代しかないとかすかな期待をかける毎日。そんな政府だ。
しかし、だからといってもうやめた!というわけにはいかない。意地でもこのキャンプは途切れさせてはいけない。現地の住民がもう大丈夫ですと言うまでは。
3. 現地のニーズと診療の限界
開設当初の患者は、明日までは確実に生きられるように処置、処方をする刹那的な医療介入であったのは否定し得ない。生きるのも過酷な本当にひどい貧困のなかに彼らは居たのだ。しかしケニアにおいてもHIVは薬剤の普及により死なない感染症になりつつあり、長生きが保証されるようになってくると、結局、糖尿病だの高血圧だのというメタボが蔓延してくる。そして、癌。メタボは生活習慣に負うところが多いのは確実で、特にふくよかな女性が多い現地では、喫緊の問題となりつつある。今年から血糖測定を導入したが、高血糖は予想以上に多い。しかし、たった一週間の外来のなかで、処方はできない。まさに「ケニアのスラムで高血圧は治さない;岩田健太郎先生著」。しかしながら本人と日々の生活のなかでどうすればいいのか、栄養指導を含めて指導することは可能だ。それが最も大切なことだろう。
残念ながら癌はそうはいかない。一昨年からポータブルエコーを持参した。多くの症状のなかで、エコーを駆使して診断に役立てるのは、医療者側としても患者側としてもストレスがなくいいことだと思っていた。医療者側からすればそれは間違いない。しかし、最近思うことがある。診断を明確にすることが、本人にとっていいことなのかと。HIVの治療薬はタダだが、その他の病気の治療には実費がかかる。特に癌やリンパ腫などでの化学療法は医療保険制度の整っていないケニアでは個人負担はかなりの額に及ぶ。エコー検査は確かに有効だ。しかし、治療できないのであればなにも知らないほうが、短い時間でも幸せに生きられることだってあるのではないか。今年のHIV合併リンパ腫のケースを通してそう思った。我々がどこまで診断すればいいのか。そのためにどこまで現代医療で介入すればいいのか。あるいはするべきではないのか。しばらくは禅問答が続きそうだ。
4.これからのあるべき姿
医療集団はある程度確立したとはいえ、どんどん拡大していくには限界があるし、現地のニーズ、そして行政のニーズとも連携しながら今後のキャンプを考えていかなくてはいけない。当初のキャンプの目的は、無料でHIV検査をして陽性者を拾い上げることが大きな目的であった。当初はHIV陽性率が25%を超えるようなところであり、医療に接する機会のなかった貧困層の住民を一般診療で招き入れHIVスクリーニングをしていった。しかし最近では、ケニア国民のほとんどがHIV検査を経験するようになり、リピーターも増えた。今回のキャンプでのHIV陽性率は公式発表ではないがおよそ5%程度。このキャンプのHIV拾い上げの任務は第一義的ではなくなったと言える。加えて稲田先生が7年前より現地入りして、現地スタッフとともに200人以上の陽性者の継続的フォローアップが可能となった。昨年から始めたコトレンゴの子供たち80人のフォローも軌道に乗り、ますます現地での継続した陽性者の医学的フォローアップと医療機関へのコンサルテーションが活動の主体になっている。
では、これからのわずか一週間程度の医療キャンプがどのような意味を成すのか。
一つは、継続することによる現地の住民と信頼とそれにリンクして稲田先生の医療活動の担保である。我々日本の医療専門集団が年に一回であれ、定期的に訪れることで稲田先生の医療活動に広がりと信頼が付与されるのであれば、意義は大きい。
二つは、若手医療者たちの国際貢献の場の提供と教育。
今、考えられる医療キャンプの現実的意義はこの二つだと思う。しかし、キャンプ形態はニーズに合わせて変わってもいいと思う。
もちろんNPOイルファーの資金事情にもよるが、キャンプの規模を縮小して、陽性者のエコー検査外来や歯科外来、鍼灸外来、そしてコトレンゴのメディカルチェックを中心に据えるのも一つだ。
現在の形態をしばらくは継続しながら、行政の行動を伺いながら、そしてNPOの予算を確認しながら先を見据えたキャンプを考えてかなくてはいけない。継続することは素晴らしいが、進化があってこそ認められる。惰性ではだめなのだ。

また、考えることが増えてきた。とにかく今年の診療は終わった。日本に帰って日常の業務に忙殺されながらでも、今後のありかたをゆっくり考えていきたいと思う。
しかしながらこれは本当だ。多くのスタッフが少々体調を崩したが、最高のパフォーマンスを出せたキャンプだったことは誇りに思う。そして、参加者みんなに感謝したい。
日本の同僚、サポーター、そして家族にも。
ありがとう。
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